テレビなどで、琉球民謡を耳にすることがあります。
その、なんとも言えない郷愁に満ちた旋律(メロディ)には、心をうばわれます。
じつは、哀しみに満ちた物語であったり、叶わぬ恋をうたったものであったり、詩はいろいろなのですが、古い沖縄の方言(ウチナーグチ)は私たちにはわかりません。
それにも関わらず、何だか知らないけど、私たちの心をわしづかみにして離しません。
ごあいさつが遅れました。こんにちは、みどるさなぎです!
今回は、沖縄の音楽(琉球民謡)が私たちの心を揺さぶる、その理由について、掘り下げていきたいと思います。
沖縄の音楽が素敵なのは? 秘密は『琉球音階』でできたメロディ
何故かわからないけどか懐かしい、でもどこか異国情緒あふれた旋律。
その秘密はなんなのでしょうか?
種明かししてしまうと、それは音階のせい です。
「音階」というと、あの、『ドレミファソラシド』?
はい、普通の曲には、ドからシまでの7つの音と、そのいくつかの音の間にある「半音」というものが使われます。
ピアノでいうところの白鍵7つと、黒鍵5つですね。
【鍵盤】
そして、「音階」といえば、半音を除いた七音、『ドレミファソラシ』のことを言うのが普通です。
しかし、古くからの音楽の中には、もっと少ない音の数でできているものもあります。
それぞれの文化圏で、歌い継がれてきた旋律は、その文化にある特徴的な音階から作られています。
どのような音階から構成されているかによって、旋律(メロディ)が独特の特徴を醸し出すのです。
五音音階について ・・・古くからの日本の多くの音楽も。
現代の普通の曲の音階は、ドレミファソラシの7つからなる音階でできています。
半音は使われますが、基本の構成はこの7つですね。
これを、『七音音階』といいます。
あえて「普通の曲」という言い方をしました。わざと複雑な音階を駆使した、前衛的な作品もあるにはあります。
それに対し、古くから伝わる民謡などでは、音階が5つの音しかないものが存在します。
5つの音から構成されている音階を『五音音階』といいます。
難しい言葉では、「ペンタトニックスケール」と呼びます。
五音音階にも複数の種類があるのですが、沖縄の音楽もその一つです。
五音からなる琉球音階 『ニロ抜き音階』
沖縄音楽(琉球民謡といってもいいかもしれません)は『ニロ抜き音階』という五音からなる音階で構成されています。
「ニロ」ってなんだ?
ふざけたような命名ですが、ニは2(に)、ロは6(ろく)の「ろ」です。
ドレミファソラシのうちの、2(ニ)番目のレと、6(ロク)番目のラを抜いた音階、それがニロ抜き音階です。
じゃあ、わかりやすく、「レラ抜き」とか言えばいいじゃない
それだと、ハ長調の時はいいけど、ソから始まるト長調とかだと話がおかしくなりますからね。
何長調であっても、その音階の2番目と6番目が抜けている、といえば、ニロ抜き音階、ということです。
『島唄』 ハ長調でドミファソシ
「ニロ抜き音階」を、The BOOMのヒット曲『島唄』を使って解説します。
わかりやすくするために、ハ長調に置き換えて説明します。
これが『島唄』の出だしのメロディです。
これに、階名と番号をふりましょう。
ピアノの鍵盤をおさえていきましょう。
このように、ド・ミ・ファ・ソ・シ の5つの音が並ぶのです。
②と⑥(ニとロ)が抜かれているのがわかりますね。
出だしの2小節で完結してしまいましたが、曲が延々続く間、基本的にこの5音だけでメロディが紡がれていきます。
但し、例外的にポロっと、5音以外のが出て来るときはあります。
それ、ズルじゃないの? あ、でも、普通のハ長調の曲でも、一音だけシャープやフラットがついてる時もあるし・・・・
琉球音階の場合は、ラはともかくとして、レの登場頻度はかなり高いみたいです。
そんな場合でも、「レ」を「ド」や「ミ」に置き換えても全体の曲の雰囲気は変わらないので、やっぱり五音音階なんだ、と思います。
ちなみに、この曲「島唄」は、民謡ではなく現代のポップスなので、曲の中ほどで完全に五音階から外れた部分があります。
BGMにも出てくる琉球音階
この琉球音階をすごく効果的に使っている映画のワンシーンがあります。
スタジオジブリの作品で、一家が別の世界に迷いこんでしまうストーリーの映画です。
主人公の女の子が川べりに座りこんで、「うそだ、うそだ」と叫ぶシーンの後です。
両親が豚に変えられてしまってショックを受けたんでしたね?
そこに、大きな船が到着して、いろんな神々がぞろぞろと船からおりてくるシーンで、そのメロディは使われています。
これも、分かりやすくハ長調で書いてみましたが、2つ目のレと3つ目のラを抜いた、五音音階になっています。
この音階を使うことによって、異世界にきてしまった、という感覚を聴覚から強く植え付けてきます。
この曲もやっぱり、あとで「レ」はでてきますけどね。
ニロ抜き以外の五音音階
沖縄を除く、日本の多くの地方で古くから歌い継がれてきた歌にも、五音音階があります。
しかし、構成する音が、琉球音階とは異なります。
ヨナ抜き音階といわれるものです。
「ヨナ」ってなんだ?
またまたふざけた命名ですが、ヨは4(よん)の「よ」、ナは七(なな)の「な」です。
長調の場合は、ドレミファソラシドの4番目の「ファ」と7番目の「シ」を抜いた、ドレミソラド。
「ヨナ抜き長音階」と呼びます。
民謡に限らず、ポップスでも、例えば北島三郎さんの「函館の女」がこの音階を使ってるのは有名です。
単調の場合は、ラシドレミファソラの4番目の「レ」と7番目の「ソ」を抜いた、ラシドミファラ。
「ヨナ抜き短音階」と呼びます。
「さくらさくら」などが代表的ですね。
九州南部から連なる島々は、すべてニロ抜きなの?
沖縄県出身の人や、九州南部出身の人以外は知らない人も多いですが、沖縄本島きわきわまで、鹿児島県なんですね。
奄美群島などは、ほぼ沖縄なんじゃないか?ってぐらい。
奄美群島は鹿児島県ですが、その中でも、沖永良部島と与論島は琉球音階が伝えられてきました。
これは、沖縄の古い歴史に由来するものです。
沖縄は19世紀まで琉球王国であり、本土とは異なる独自の文化が栄えていました。
さらにさかのぼると、15世紀の初頭に中山王国の尚巴志が統一するまでは、南山王国、中山王国、北山王国 という3つの王国に分かれていました。
沖縄本島の北部と、奄美群島の沖永良部島と与論島までは、北山王国の領域であったと伝えられています。
そしてこの王国の範囲、つまり沖永良部島以南に、ヨナ抜き音階が伝わったと考えられています。
沖永良部島の隣の、徳之島以北は、本土と同じヨナ抜き音階です。
「沖縄民謡(琉球民謡)」にくくられる音楽の中には、奄美や沖縄よりもさらに南西の島々で歌い継がれたものもあります。
宮古島周辺の宮古民謡、八重山諸島(石垣島、竹富島、小浜島など)の八重山民謡、与那国島の与那国民謡などです。
島々によってメロディも異なりますが、特に、歌詞は島が違うとまったく通じないぐらい異なる言葉だそうです。
我々には全部、「わからない」という意味合いで共通です。
そして、これらが全部、琉球音楽(ニロ抜き)か?というと、これまた、そうでもないです。
宮古民謡の中でも有名な、「なりやまあやぐ」や「豊年の歌」などは、ニロ抜き音階ではなく、ヨナ抜き音階。
八重山民謡などは、ニロ抜きよりもヨナ抜きの曲の方が多いともいわれます。
与那国民謡を集めたCDも視聴してみましたが、ニロ抜きとヨナ抜きの比率は3:7ぐらいでしたね。
4曲目の、心おどる良い調子の曲「でぃらぶでぃ節」は琉球音階(ニロ抜き)です。
文化というのは混ざり合うし、変遷するから、複雑だしおもしろいですね。
琉球音楽と同じ『ニロ抜き音階』はインドネシアなど東南アジアの音楽にもみられるそうです。
琉球音楽で有名な歌手、琉球音階の名曲
THE BOOM
先程の解説でも取り上げた、『島唄』は有名です。
ただし、「島唄」という単語自体は、一般的に奄美地方に伝わる琉球音楽のことを指すことが多く、奄美のうちでも、徳之島以北は琉球音階ではありません。
ちょっとややこしいですね。
また、The Boomは、沖縄出身でもなく、琉球音楽の専門家でもありません。
このため、この曲が出た当初は、沖縄の人にもいろいろな感情があったみたいですよ。
男女の別れを歌った曲ですが、戦争への怒りと哀しみがこめられた曲です。
伝統的な琉球の曲、というわけではありませんが、琉球音階の調べを日本中に知らしめた、という意味では、とても意義深いと思います。
BEGIN
このバンドは、全員が石垣島出身の、本当の沖縄人です。
「涙そうそう」や「島人ぬ宝」で有名なバンドですね。
また、携帯電話会社のテレビCMで、浦島太郎が歌っていたのが印象的な『海の声』。
浦島太郎に扮した桐谷健太さんは、沖縄出身ではありませんが、この曲を作曲したのは、BEGINの島袋優さんです。
どの曲も、沖縄の曲の雰囲気の元として、五音音階の土台をうまく使っています。
だだ、ポップスに求められる聴きやすさや盛り上がりを作るには五音音階では無理があるのかして、曲全体としては、どの曲も七音音階になっています。
この記事(ニロ抜きの紹介)にはふさわしくないかもしれませんが、沖縄音楽としては外せないバンドなので紹介しました。
大城美佐子(おおしろみさこ)
さて、ここからは、沖縄民謡の専門家のご紹介です。
大城美佐子さんは、1936年(昭和11年)生まれの、沖縄民謡の歌手です。
歳をとられても長年精力的に活動されてきましたが、2021年(令和3年)に84歳で亡くなられました。
「沖縄民謡の重鎮」「沖縄民謡のレジェンド」などとも称され、生涯歌い続けた偉大な歌手です。
たくさんのライブやCD録音をおこなったのみならず、映画への出演などもしていたみたいですね。
平良りんこ(たいらりんこ)
沖縄県出身の琉球民謡歌手です。
1953年生まれで、半世紀近くにわたって琉球音楽を歌い続けているベテランです。
現在は首都圏在住で、ライブ活動や琉球民謡教室を営んでいます。
知名定男(ちなさだお)
1945年生まれの沖縄民謡歌手です。
知名定繁さんという、沖縄民謡の大家と呼ばれた人を父に持つ音楽家、いまや沖縄民謡の普及の中心人物になっています。
自身が歌うのみならず、作詞・作曲や音楽プロデュース、ライブハウスの経営なども行っています。
僕はこの人が歌う、『月ぬ美しや」という曲で、すっかりこの人のファンになりました。
しっとりと、しかも魂のこもったような歌いに、我を忘れて聴き入ってしまいます。
ただ、この『月ぬ美しや」はニロ抜きではなく、ヨナ抜きの音楽なので、この記事にはあわないので、代わりに『たんちゃめー』という曲をご紹介します。
上間綾乃(うえまあやの)
1985年生まれの、若手の琉球民謡歌手です。
沖縄県出身で、小学2年から三線を習い始めたそうです。
現在も琉球民謡を歌い続けていますが、三線を伴奏につけた古来の演奏よりは、ポップスのバック演奏をつけて、若い世代にも聞きやすい音楽をより多く届けているようです。
CDでも、沖縄の音楽の響きを強く残しつつ、ポップスの聴きごたえとうまく融合した音楽を聞かせてくれます。
下のYoutubeは、『ハリクヤマク』という民謡です。
「カチャーシャー」とよばれる、テンポの早い沖縄民謡にあわせた踊りに使われる、古来からの曲だそうです。
まだまだ、たくさん紹介したい歌手や名曲がありますが、このへんで・・・。
もう一つだけ!琉球王国の国家といわれる、『石なぐの歌』も捨てがたいですね。
まとめ 沖縄の音楽が美しい秘密は琉球音階
沖縄の音楽が、沖縄出身でもない僕たちの心にこうも響く理由について、解説しました。
その秘密は『琉球音階』(ニナ抜き音階)という五音音階にありました。
異国情緒あふれた、どこか懐かしい旋律。
すぐにでも飛行機に飛び乗り、沖縄の島々を旅したくなりますが、なかなか簡単にはいきません。
せめて、部屋の電気を明るくして、温度もポカポカに暖かくして、琉球音楽に身をゆだねて旅情に浸りたいものです。
では、またっ!
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