日本人であれば、「伊勢」という地名を知らない、という人はいないでしょう。
「伊勢神宮」「伊勢湾」「伊勢エビ」「伊勢うどん」の、あの「伊勢」です。
本州の真ん中に位置する紀伊半島の東側に南北に細長くのびる「三重県」。
その三重県の真ん中あたりで、東の伊勢湾側に飛び出た「志摩半島」に、「伊勢市」はあります。
ごあいさつが遅れました。こんにちは、みどるさなぎです!
伊勢市の、市の中心地から8kmほど離れたところに、「二見(ふたみ)」という町があります
そこにある、「賓日館」(ひんじつかん)という資料館をご紹介します。
県外から伊勢を訪れる人の観光地としてはあまり知られていませんが、とても素敵なところです。
伊勢で伊勢神宮以外の観光スポットは?
伊勢と言えば、誰もが真っ先に挙げるのは「伊勢神宮」です。
「伊勢神宮」は通称であって、正しくは「神宮」ですね。内宮(ないくう)と外宮(外宮)を中心とした神社群です。
神社めぐりが好きな方には、伊勢神宮系の末社だけでも、行きつくせないほどのスポットがあります。
また、最近はパワースポットとして人気の、「猿田彦神社」も有名です。
一方、神社以外、となると、よく知られた有名な観光スポットというのは、あまりない気がします。
以前、伊勢市の「河崎」という町に残る、素敵な資料館をご紹介しました。よかったらご覧ください。
夫婦岩で有名な二見も伊勢市
伊勢市の中心地から離れ、鳥羽方面へ向かって、車で約20分走ったところに、二見(ふたみ)、という町があります。
かつては二見町という、伊勢市とは異なる、独立した市町村でしたが、平成の大合併で伊勢市に併合された町です。
そこは、夫婦岩で有名な二見興玉神社や、伊勢シーパラダイスで人気のエリアです。
今回ご紹介する「賓日館」もこの町の一角にあります。
日本全国のレンタカー格安料金を比較・予約するならエアトリにお任せ!伊勢 二見の隠れスポット「賓日館」
この館は、明治20年に、伊勢神宮に参拝する賓客の休憩・宿泊施設として建設されたものです。
明治末期と昭和初期の2度の大増改築を経て、今の姿に至ったそうです。
建物の前には、かつては海水浴場としてにぎわった、二見浦の海岸が広がっています。
ご幼少期の大正天皇がここに滞在され、避暑・療養・水泳訓練をされた、という歴史が残っています。
建物のうちの最も格式が高い部屋がその部屋で、御殿の間と称して残されており、観覧が可能です。
その他にも、皇族や各界の要人が宿泊した、とても格式高い宿泊所として君臨しました。
明治末期には民間(三重県初の政府登録国際観光ホテル「二見館」)に払い下げられ、平成11年の廃業まで数多くの貴人を宿泊させました。
いまでは資料館として一般公開され、国指定重要文化財として登録されています。
では、行ってみましょう。
賓日館専用駐車場
賓日館には広大な専用駐車場があります。
本記事を書いた、2022年8月にはありましたが、その後閉鎖されたようです。
伊勢から来て、夫婦岩のある二見興玉神社に到着する直前で、案内看板に従って、奥まった路地に入っていきます。
すると、賓日館専用駐車場という看板があります。
観光施設の駐車場というよりは、近所の空き地を使わせてもらってる、という感じですね。
左に見えてる、古いホテル跡の元駐車場に見えますね。
一般車用のスペースとしては20台ぐらい停められる広さがあります。
僕が行ったのは日曜日の昼過ぎでしたが、止まっている車は僕の車1台だけでした。
駐車場の脇にはなんだか風情のある、廃墟があります。
天空の城なんとか、にそのまま登場しそうな・・・・。
時代を感じさせてくれるのはいいのですが、観光としてはなんだか不安になってきました。
廃墟の前には、観光バスが停められるスペースも確保されています。
バスが来るイメージがまったくわかないのですけど・・・。
この写真の正面に見える建物が、実は今回の目的地なのですが、それはまだ考えないほうがよさそうです。
このまま帰ろうかな、という気になってしまいますからね。
しかし、帰らなくて正解です。正しく正面からみたらすっかり印象変わります。びっくりしますよ!
なお、現在では、この専用駐車場は使用できません。
すぐ近くに市営駐車場(無料)があるので、そこに車をとめて歩きましょう。(徒歩5分ぐらいです)
二見浦の海岸沿いの景色
本当にここに来てよかったのか?という一抹の不安を胸に、目的地に向かいます。
すると正面には、またも恐ろし気な建物が・・・!
しかし、外観のボロさとは裏腹に、最近はやりの、犬と一緒に泊まれる人気のホテルみたいです。
玄関から見た内装はなかなか豪華で美しく、中にはきっちりとしつけられた、大きな犬が2匹いましたよ。
(最初に犬が見えたときは、廃墟に野良犬が住み着いてるのかとビビりましたが)
僕が散歩している間にも、かわいい犬を連れた若い夫婦が、チェックインしに入っていってましたよ。
なんとか心を平常に保って、さらにすすむと、そこはさすがに、いにしえからの観光地。
よく整備された美しい通りになっていました。
この道をまっすぐ行った先が、夫婦岩のある二見興玉神社(ふたみおきたまじんじゃ)です。
道沿いには、松尾芭蕉の歌碑なんかもあります。
ところで、このシチュエーションだと、たぶん百人が百人、海を見よう、ということになることでしょう。
石の置物のワニ(なぜワニなのかは不明)に誘われて、防波堤の階段を上がってみます。
さて、どんな素敵な景色が・・・?
うん・・・。あまり大した景色ではありませんでした・・・。
ちなみにこの景色の先にはよくみると鳥居があります。
そこから先は二見興玉神社です。
そして、道を挟んだ反対側に、その賓日館はあります。
とても格式高い建築物
門を入り、前庭を進む
入口近くにある案内看板です。
入館料は、大人310円、と、なかなか良心的な値段です。
門を入ると、玉砂利の前庭が広がっており、その正面に賓日館の本館があります。
左側には塀を隔てて、素敵な庭園があります。
それを囲むように、立派な黒松が・・・。
ちなみに、この写真の中央に見える2階部分は、賓日館で最も格式高いお部屋です。後で紹介します。
反対の、右側に目をやると・・・?
こっちの景色は大したことありませんね。
砂利のお庭があって、記念写真スポットにはなっているようです。
庭の向こう側は、かつては旅館が隣接して、一体の景色となっていたようですが、いまは切り取られて殺風景になっています。
門から見て真正面にあたる表玄関は、ぜひゆっくり鑑賞したい建造物です。
本来はここが正面玄関ですが、価値のある鑑賞対象なので、見物客はここからではなく右横の入り口から中へ入ります。
ちなみに、この正面玄関の写真、上部に注連縄(しめなわ)が飾ってありますが、ここを訪れたのは一月ではありません。
実は、この地方では、注連縄はお正月だけではなく、一年中飾る習慣があります。
伊勢を初めて訪れた人は、驚かれるようですね
僕の家も、一年を通して注連縄を飾っていますよ。
正面玄関から中を除くと、つい立ての向こうの部屋の手前には、なにやら由緒ありそうな台が飾ってあります。
期待が持てそうです。
受付をして賓日館の中へ
お金を払って受付を済ませ、靴を脱いで入場すると、まず先ほどの正面玄関を上がったすぐの部屋に入ります。
開け放たれた正面玄関の向こう側は、先ほどの砂利の前庭です。
そして、この、最初の部屋の調度品を見ていきましょう。
先ほどの古式ゆかしい台をゆっくり鑑賞できます。
かなり古いものらしく、表面が剥がれてしまったりもしていますが、素人目にも昔のかなり高級なものであったことが想像できます。
残念ながら、なんて書いてあるのかは僕には読み取れません・・・・・。
美しい振り子時計の上には、木彫りの鳥が羽を広げていたり・・・。
床の、畳と畳の間に埋め込まれた板は、実はすごく手の込んだ組み木だったり・・・。
奥の美しい中庭にも興味をそそられますが、それはあとのお楽しみにして、順路にしたがってまず2階へ上がりましょう。
手すりの柱は立派な彫刻の「二見ガエル」。
柱の上に載っている親ガエルと、側面の子ガエルともに、一本の柱から彫られたものだそうです。
木の階段を、二階へとすすんでいきましょう。
通路上にも、手の込んだ組み木の床があったりしますよ。
賓日館二階の客室群
二階にはいくつかの旧客室があります。
畳の和室、床の間、掛け軸、壺・・・
なんだかとても落ち着きます。
間取図をみると、大きな部屋がドーンドーンとあるように見えますが、昔の日本の和建築のすばらしいところは、用途に応じて区切るなど、使い方の自由度が高いところです。
そしてそれらを全て開け放てば、真夏であっても涼やかな風がとおり、クーラーなしでも心地よくすごすことができます。
窓の外は、先ほど通ってきた、玄関前の砂利の前庭です。
そしてその奥には二見の海岸が広がっています。
顔を横に向けると、賓日館の正面の門とその奥の海岸。
そして、目前には表玄関の古めかしい屋根が、美しい曲線を描いています。
ところで、だだっぴろい客室群ですが、いまは宿泊施設としては使われていないので、空間をもてあましてしまいます。
そこで、これらの元客室を貸し切って、不定期のイベントが行われたり、展示物を並べたりを継続的におこなっているようです。
さて、そろそろ、賓日館のクライマックスの一つ、大広間へ向かいます。
途中にも、調度品や古い家具など、僕たちを飽きさせることなくいろいろなものが目に入ってきます。
たとえば、この、中国の美人画描かれた木製屏風などは、トイレの目隠しにしておくにはあまりに贅沢な使い方です。
老松の舞台を備えた大広間
このとてつもなく大きな広間は、間違いなく「賓日館」の目玉の一つです。
敷き詰めた畳と、老松を背景にした舞台。
舞台の上には、なんだか楽しそうなことが書かれてそうな立派な額が・・・。
天井のつくりも凝っているし、シャンデリアなどは圧巻です。
左右には日本庭園が広がっており、景色も最高です。
窓の桟は木の細工が施され、畳敷きの廊下と大広間との境目は、公家の作りを思わせる簾で区切られています。
廊下は廊下で、趣深いシャンデリアを惜しみなく吊るしてあります。
あらゆる造作物、調度品が、贅沢をきわめていて、飽きるところがありませんね。
舞台の対面には立派な床の間があり、素敵な朝日の額縁が飾ってあります。
舞台があまりに立派なのでそっちに目を奪われてしまいがちですが、こっちを正面と言ったとしても、なんら遜色ないぐらいの景色です。
ちなみに、床の間の脇には、さりげなくお琴がおかれており、「ご自由にお弾きください」とありました。
ここでかっこよくお琴を演奏できるぐらいの素養があればよかったのですが・・・・。
廊下に出てみます。
素敵な日本庭園と、その向こうには青い空と海。
そして、その左手前に、この館では一番格の高い一角があります。
ここが「御殿の間」です。
大正天皇も幼少期に宿泊された「御殿の間」
大広間を後にして、御殿の間に向かいます。
どうやら、御殿の間と大広間を直結している通路があるようでしたが、そこは観覧客には解放していないようです。
ぐるっと回って、正規の廊下から、御殿の間に入ります。
言うまでもなく、この建物でもっとも格式が高く、景色ももっとも素晴らしく見える位置にあります。
角部屋の二面がすべて窓になっていて、きわめて開放的な空間になっています。
そこからは海が一望でき、また窓の下は日本庭園が広がっていて、庭の中に部屋が浮かんでいるかのような感覚です。
部屋と廊下の間の御簾が、いかにも宮中っぽい風格を醸し出していますね。
窓際のテーブルと椅子は、いかにも上級な感じです。
この写真の、窓の向こうに、先ほどの大広間が見えます。
おそらく、この御殿の間に泊まった御仁は、この廊下から直行で大広間に向かったのでしょう。
貴人だけに許された通路って、なんか憧れますね。
さて、肝心の「御殿の間」です。
床の間を背にした上座から、こちら側に向かって座ると、右側と正面が、先ほどの庭園の景色です。
さらに正面を見晴らすと、二見浦の海が一望できたことでしょう。
なんとも豪快な間取りです。
この館が最も煌びやかだったころは、ここに泊まる皇室や貴族は、我々一般市民が近づけないような存在だったのでしょうね。
御殿の間につづく廊下には、ここを訪れた貴人を記した札が掲げられています。
これだけの方々を受け入れることのできた、この宿の誇りを感じさせます。
右から2番目の「皇太子嘉仁親王殿下」とあるのが、大正天皇が幼少期に泊まられた証ですね。
尚、時代をだいぶ下って、昭和の来訪記録の札を並べた額には、馴染みのある名称も見られます。
そして、その一番最後(左端)には「昭和五十九年」「礼宮文仁親王殿下」とあります。
今の皇嗣殿下(秋篠宮殿下)ですね。
賓日館一階の旧客室
一階には資料展示室も
二階を十分に堪能したところで、再び一階へと下ります。
一階にもいちいち、すてきな調度品が、そこかしこにあります。
この写真の左側の立て札のとおり、一階には旧客室のほか、資料展示室があります。
この橋(といっても建物の中の造作物)の向こう側にあるのが、資料展示室です。
資料室では、二見浦の歴史紹介や、賓日館で使われてきた調度品などが展示されています。
また、古文書や、看板、賓日館を訪れた著名人の記事などもあります。
さらに、地元の日本画家の作品も展示されています。
ただ、この展示室だけは、写真撮影禁止でしたので、残念ながら写真で紹介することはできません。
展示室以外は自由に写真をとっていい、と受付の人が言ってくれてましたよ。
旧客室は素敵な庭に面した和室
展示室の見物を終えて旧一階客室に向かいます。
この中庭も手が行き届いてます。右側に見えるのが先ほどの、展示室につづく橋の欄干です。
通路脇の洗面所も、ここが宿泊所として使われていた時代を思い起こさせてくれる風情です。
冷たい水しか出なさそうですけどね・・・。
廊下の置物などにいちいち目を奪われていると、なかなか先に進めず、客室にたどりつきません。
もちろん、建屋すべてが観覧用に整備されているわけではないので、朽ちているところもありますが・・・。
それでも、過去の栄光の名残らしく、坪庭としては十分立派なものですけどね・・・。
そして、いろんなものに目を奪われてモタモタした末に、やっと一階の旧客室にたどり着きました。
いくつもの客室がありますが、どの部屋もとても立派な造作でできており、庭の眺めも最高です。
ちなみに、客室は展示スペースとしてもうまく活用されており、僕が行ったときは人形作家さんの作品がフロア中に展示されていました。
ちなみに、一番上の写真の奥に映っている庭は、さっきから何度も登場している庭園ではなく、裏庭です。
部屋と部屋の間にある通路の照明も凝っています。
千鳥の模様が可愛らしいですね。
旧客室から庭園におりてみる
一階の旧客室から見る庭園も、素敵な景色です。
庭には水琴窟が2箇所あり、水を流して耳をすませば、地下から美しい音が聞こえてきます。
縁側の下にはサンダルがおかれているので、庭園におりてみることができます。
この写真は、庭園から賓日館をみたところです。
左側の一階が、いま下りてきた、旧客室です。
その上が、あの素敵な舞台があった大広間です。
右側にせり出している棟の二階が、一番格式の高い、御殿の間です。
ところで、御殿の間の下の部屋だけ、まだ行っていませんね。
では、最後に、一階の「ことぶきの間」を見て、賓日館見物を締めくくりましょう。
まとめ 二見の隠れスポット「賓日館」
圧巻の建造物や調度品の数々に、驚きを禁じえぬまま、賓日館をあとにします。
敷地を出ようと歩をすすめると、目前にはあまりにも美しい海岸!
いやあ、まいりました!
今回正直にいうと、あまり期待していなかったのですが、行ってみて心を改めました。
歴史と由緒ある土地には、こういった隠れたすごいスポットがあるものなんですね。
伊勢は伊勢神宮だけではなかった!
二見は夫婦岩だけじゃなかった!
一度訪れて損のない、おすすめのスポットですので、よろしければぜひどうぞ。
尚、鉄道で行く場合、最寄りの二見浦駅は、1時間に1本程度(時間帯によっては2本)の列車があるるので、三重にしては、比較的便利な観光地です。
ただ、伊勢や鳥羽にある、数々の観光地も見て回るのであれば、間違いなく車が便利です。
観光地自体、分散していますし、辺鄙なところも多いですからね。
観光地の駐車場も、わりと無料のところが多いので、便利な上にお得感があります。
もし免許を持っているのでしたら、レンタカーでまわる方をおすすめします。
(近鉄の駅近辺で、便利に借りることができますよ)
では、またっ!
コメント